超訳【無門関】
第23話 善ではない、悪でもない 原題「不思善悪(ぜんあくをおもわず)」
中国における五代目の仏教伝承者である弘忍(こうにん)和尚から六代目の認可を受けた慧能(えのう)さんが人里離れた県境の山上を旅していると、かつての同僚の明(みょう)上座というオッサンが追いかけてくるのが目に入りました。
慧能さんは肌身離さず持ち歩いていた先代の衣鉢(服と食器)を石の上に放り投げてこう言いました。
「これは正統伝承者の証なんだけど、そんなに欲しいなら、持っていきな!」
ラッキー! とばかりに、明上座は拾い上げようとしましたが、山のように重くてビクともしません。
彼はすっかりビビッてしまいましたが、何とか次の台詞を絞り出しました。
「いやその・・・・・・ 私が欲しいのは、こんな服とかじゃなくて、正しい悟りの境地なんですよ。
慧能さん、お願いです。その境地を私にも教えてくれませんか?」
慧能さんは、こう言いました。
「善を思わない。悪も思わない。
さて、そうした時の貴方はいったい全体、何者なんだい?」
それを聞いた途端、明上座はガーンと悟ってしまいました。
衝撃のあまり全身から汗が滝のように噴出し、涙がとめどなく流れ出します。
彼はそのまま大地にひれ伏すと、さらにこうたずねました。
「恐れ入りました・・・・・・ なんと素晴らしい奥義でしょう!
もっと他にも聞かせてもらえませんか?」
慧能さんは言いました。
「え? 今のは奥義でもなんでもないよ。
・・・・・・そうだな、自分自身を振り返って見てごらん。
もし奥義なんてものがあるとするなら、むしろ君の中にこそ、あるんじゃないかな。」
明上座はそれを聞いてこう言いました。
「私は五代目の元で皆と一緒に必死に修行してきましたが、ちっともピンときませんでした。
でも、今、まさに目からウロコが落ちたような気分です。
是非、貴方のことを師匠と呼ばせてください!」
慧能さんは言いました。
「やめてくれよ!
・・・・・・そうだな、もし、「わかった」というのであれば、私のように五代目を師匠と仰ぎなさい。
で、今の気持ちを忘れないようにね。」
何とまぁ、六代目の親切なことよ。
ライチの皮をむいて種を抜いて、口に入れてくださるなんてな・・・・・・

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